経営者お役立情報
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《経営者お役立情報》2017年10月4日
会社をネット炎上から守るために!
第1 はじめに
従業員が顧客の個人情報や勤務先に対する不満をインターネット上の掲示板やSNSにアップしたり、犯罪行為や違法行為、店舗の備品を使った悪ふざけを武勇伝のように公開してしまう事件が増えています。
このような投稿があると、ネット上では批判が殺到するとともに、投稿者の特定作業が行なわれ、氏名、勤務先や内定先、交友関係などの個人情報が次々と晒され、「炎上」してしまいます。
誰でも手軽に情報発信ができる今日では、たとえ従業員が私的に利用したSNS等であっても企業経営にとって無関係とはいえません。今回は、ネット炎上が発生するとどのような事態が生じるのか、炎上が発生した場合の対処法、炎上の予防法などについて解説します。
第2 ネット炎上が発生すると会社にどのような事態が生じるのか
1 「炎上」発生
従業員の投稿により炎上が発生すると、勤務先が特定されるまでは1日も かからないでしょう。ネット上では従業員や勤務先の情報について「まとめサイト」が作られたり、新聞やニュースで報道されて炎上は勢いを増していきます。
勤務先が特定されれば、世間からは違法行為を行う従業員がいる会社、情報管理や社員教育が不十分な会社であるとのレッテルを貼られます。取引先が離れていき、売上減少などの損害が生じることもあります。会社の信用が著しく低下することは避けられないでしょう。
2 従業員・退職者による投稿の場合
従業員や退職者による会社に対するネガティブな情報発信の場合は更に注意が必要です。
従業員や退職者の場合、会社内部の情報に詳しいため、投稿内容が具体性、迫真性に富み、読み手が投稿内容は真実であると受け止める可能性が高いのです。そうすると、書き込まれた通りのネガティブな企業イメージが広まってしまうことになります。
たとえば、社長や上司に対する誹謗中傷、セクハラ・パワハラ、サービス残業、休みが取れないなどいわゆる「ブラック」な職場環境に関する情報、採用、昇給、配転など人事に関する情報などがこれに当たりますので注意が必要です。
3 法律上の責任は?
炎上が発生した場合の法律上の責任をみますと、投稿が顧客など第三者の名誉やプライバシーを侵害する内容であった場合には、投稿者の勤務先会社は、被害者である第三者から使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償を請求されるおそれがあります。
また、従業員が名誉棄損罪(刑法230条。3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)、業務妨害罪(刑法233条。3年以下の懲役または50万円以下の罰金)で刑事処罰される可能性もあります。
第3 炎上が発生したらどのように対処すればよいのか
1 取引先など社外向けの対応
取引先など社外向けの対応としては、炎上によりご迷惑、ご心配をおかけしていることを詫び、事態収束に向けて動いていることを示し、安心してもらうことが大切です。投稿内容が事実でない場合には、事実でないことをきちんと説明しておきましょう。
2 社内向け
社内向けの対応としては、会社としては事態を把握していること、顧問弁護士に依頼して投稿者の特定や法的責任の追及を進めていることを告知しましょう。炎上した場合であっても、もともとは「会社に迷惑をかけよう」とか「会社に損害を与えよう」などという意図はないケースがほとんどですから、会社が炎上を把握し対応をしていることがわかれば、社内からそれ以上の投稿がなされることを防ぐことができます。
3 投稿者(と疑われる者)向け
投稿に含まれる情報が社内の一部の者しか知り得ない情報だった場合や、投稿の時期と会社とのトラブル発生の時期との関連性等から、投稿者がある程度予想できる場合があります。
しかし、客観的な裏付けがないのに、投稿者(=犯人)と決めつけて抗議や削除の要求などをすると、かえって、名誉毀損であるなどと反発され、新たな炎上リスクを生じかねませんので慎重な対応が必要です。
このような場合には、投稿者と疑われる者を含む特定のカテゴリーに属する者全員に向けて(たとえば、投稿者と疑われる者が在籍する部署全員宛とか、退職者の場合には直近1年間の退職者全員宛といった具合に)メッセージを発信することで、個人攻撃をしているとの批判をかわすことができます。
第4 プロバイダ責任制限法に基づく投稿者の特定
1 匿名の投稿であっても投稿者の特定ができる
インターネット上の投稿は、投稿が匿名でなされたとしても、投稿者を特定する方法があります。
インターネット上の投稿は、投稿した際のIPアドレス等の情報がログとして保管されています。そこで、ログを保管しているコンテンツプロバイダ(掲示板の運営者等)や経由プロバイダ(インターネット接続のために契約しているプロバイダ)に対して、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示請求をすることにより、投稿者を特定することができるのです。
2 投稿者の特定までの順序
投稿者の特定までの順序としては、まず、問題となる投稿が掲載された掲示板の運営者等(コンテンツプロバイダ)に対して投稿の発信者情報の開示請求あるいは仮処分を申し立てます。
これが認められると、掲示板の運営者等から当該投稿のIPアドレスとタイムスタンプの情報を取得できます。
次に、IPアドレスとタイムスタンプの情報をもとに、当該IPアドレスを管理する経由プロバイダに対して発信者情報の開示請求あるいは訴訟を提起します。
これが認められると、発信者の経由プロバイダとの契約上の住所や氏名等の情報を取得することができます。
さらに、経由プロバイダの契約者と実際の投稿者が同一であるかを念のため調査し(家族の名義で契約をしていたり、会社やネットカフェなど不特定多数の者が利用している場合があり、経由プロバイダの契約者と投稿者が一致するとは限らないためです。)、投稿者を特定することができます。
なお、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求はログの保管期間が短いことや、専門的な法律知識が必要なため、顧問弁護士に依頼することをおすすめしています。
3 投稿者の特定ができたら
投稿者が特定できれば、投稿者に対して投稿の削除を請求するほか、民事上、刑事上の責任追及をしていくことになります。
ちなみに、インターネット上の投稿の場合、投稿者を特定するためには法的手続を要することが通常なので、投稿者の特定に要した弁護士費用が別途損害として認められるケースもあります。
第5 プロバイダ責任制限法に基づく削除請求
1 投稿を削除するには
投稿を削除するには投稿者を特定して投稿者に削除させる方法のほかに、プロバイダ責任制限法に基づき、投稿を掲載している掲示板の管理者等に削除を請求する方法があります。
2 プロバイダ責任制限法
プロバイダ責任制限法とは、表現の自由と個人のプライバシーや名誉のバランスを取るために制定された法律です。インターネット上の投稿が誰かのプライバシーや名誉といった権利を侵害するものであるとしても、一方で投稿者にはそのような投稿をする自由、表現の自由が保障されています。削除要請を受けたサイト運営者(プロバイダ)は、投稿を削除すれば投稿者の表現の自由を侵害してしまいますし、投稿を削除せずに放置すれば対象者のプライバシーや名誉を侵害してしまうという板挟みに陥ってしまいます。プロバイダ責任制限法は、このような板挟みからサイト運営者(プロバイダ)を解放し、一定の条件の下であれば投稿を削除してもプロバイダの責任を問わない(責任を制限する)という制度を設けているのです。
3 削除請求(送信防止措置請求)の順序
削除請求の順序としては、まず、サイト運営者にプロバイダ責任制限法に基づく削除請求(送信防止措置請求)をします。
サイト運営者は投稿内容が権利侵害に該当し削除すべきと判断したときには投稿を削除します。サイト運営者が削除すべきか直ちに判断できないケースでは、投稿者に対して投稿を削除することについての意思確認をします。投稿者が意思確認に返答しなかったときはサイト運営者は投稿を削除することができます。
プロバイダ責任制限法に基づく削除請求(送信防止措置請求)も発信者情報開示請求と同様、専門的な法律知識が必要なため、顧問弁護士に依頼することをおすすめしています。
第6 なぜ炎上するような投稿をしてしまうのか
1 リテラシーの低さ
なぜ炎上するような投稿をしてしまうのでしょうか。たいていの原因は、ネットのリテラシーの低さにあります。これまで発生した炎上事案をみると、「会社に迷惑をかけよう」とか「会社に損害を与えよう」などという意図はないものがほとんどです。炎上してしまった後で、「ここまで大事になるとは思わなかった」というような、軽率な投稿がほとんどです。
なお、いわゆる「バイトテロ」と呼ばれる、若いアルバイト従業員による投稿に限らず、ベテラン社員や経営幹部であっても炎上するような投稿をしてしまうことはあります。ですから、年代や職種は原因ではないと心得ておくべきでしょう。
2 会社に対する不満・苦情
また、後述しますが、従業員等による会社に対するネガティブ情報の発信の場合には、何かしら会社に対する不満を抱くに至った事情があり、その不満をネット以外では解消できなかったということが原因と考えられます。
第7 炎上を予防しよう その1「リテラシーの底上げ」
1 リテラシーの底上げ
ひとつめの原因を取り除くには企業全体のリテラシーを底上げするしかありません。世代や職位に関係なく、全社員を対象としてインターネット利用に関する研修、教育を行うことが必要でしょう。
2 3つの基本的なポイント
社員教育では、3つの基本的なポイントを理解させることが大切です。
①SNS、インターネットは公開の場であること
②匿名であっても個人特定は可能であること
③必要以上に個人情報を公開しないこと
いずれも基本的な事柄ですが、この3点を理解すれば大きなトラブルは予防できます。
3 炎上したらどうなるか、を理解させる
炎上が第三者や会社にどのような影響を与えるか、それらを含めて投稿者本人にどのような影響を与えるかを理解させることが必要です。
まず、顧客など第三者の名誉やプライバシーを侵害した場合、顧客との関係で投稿者本人が不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任が生じることがあります。また、名誉棄損など刑事処罰の可能性もあります。
次に、勤務先との関係では、勤務先が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償責任を負担した場合には、投稿者本人に対して求償をすることができますし、会社が独自に損害を被った場合には会社から損害賠償請求されることもあります。また、懲戒処分の対象となることもあります。
そのほか、本人のプライバシーも大きく損なわれます。炎上によって個人が特定されると、個人情報が晒され、社会生活上の不利益が大きくなります。一度ネット上に流れた個人情報は、コピー、拡散が繰り返され、ネットの中で半永久的に残り続けます。
軽率な行為が、「大事」になってしまうことを自覚してもらうようにしましょう。
第8 炎上を予防しよう その2「良い会社になろう」
1 良い会社になろう
ネットリテラシーの底上げと同じく大切な予防法は、①従業員の会社に対する不満・苦情をなくす、減らすこと、そして、②不満・苦情の申立先、いわば「はけ口」を用意しておくことです。
2 従業員の不満・苦情をなくす、減らす
従業員の不満・苦情をなくす、減らすためには、会社が法令を遵守することが大切です。当たり前のことですが、セクハラやパワハラなどのない労働環境を整備する、残業代の支払や休日の取得など労働法制を遵守する、といった点が挙げられます。従業員の不満・苦情が減り、従業員が職場に満足していれば、炎上するような投稿をする動機は無くなっていきます。
3 不満・苦情の申立先「はけ口」を用意する
従業員の不満・苦情をなくす、減らすための取り組みが大切なのはもちろんですが、不満・苦情を全くゼロにするというのも現実的ではありません。
そこで、従業員が会社の不満・苦情をもったとしても、その不満や苦情を会社内で発信し、解決できるようにしておくことも大切です。
たとえば、苦情窓口を整備して従業員に周知することや、上司と部下が日頃から相談できるような信頼関係を築いておくことなどが考えられます。
このように見てくると、従業員が幸せに働ける会社作りをしていくことが、結局はネット炎上の予防になるといえます。
第9 まとめ
今回は、ネット炎上の実態や、対処法・予防法についてご説明しました。
とはいえ、会社によって従業員のリテラシーの程度、業務内容や取り扱う情報の質と量は異なります。また、会社内でのコミュニケーションがどの程度図れているかは会社によって様々です。それぞれの会社における具体的な取り組みについては、法令遵守の観点のみならず、顧問弁護士と相談の上、オーダーメードで社員教育や社内体制の整備をすることをおすすめいたします。